大阪地方裁判所 平成6年(ヨ)1661号 決定
債権者
中谷美智子
右代理人弁護士
井上二郎
同
上原康夫
同
中島光孝
同
金子利夫
同
竹下政行
債務者
株式会社源吉兆庵
右代表者代表取締役
岡田拓士
右代理人弁護士
菊地捷男
同
浅野律子
同
田村尚史
主文
一 債権者が債務者に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。
二 債務者は債権者に対し、平成六年五月二三日から本案判決言渡しに至るまで毎月一五日限り一ケ月金一八二、一〇三円を仮に支払え。
三 債権者のその余の申立てはこれを却下する。
四 申立費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の申立
一 債権者
1 主文第一項、第四項と同旨
1(ママ) 主文第一項、第四項と同旨
2 債務者は債権者に対し、平成六年五月二三日から本案判決確定に至るまで毎月一五日限り一ケ月金二六六、九一八円を仮に支払え
二 債務者
1 債権者の申立を却下する。
2 申立費用は債権者の負担とする。
第二前提たる事実について
本件各疎明資料および争いのない事実、審尋の全趣旨によれば次の事実が一応認められる。
一 債権者は平成三年一二月一日に債務者に期間の定めなく雇用され、債務者の近鉄阿倍野店に販売店員として勤務しており、平成五年一二月から同六年二月までの一ケ月平均手取賃金は金一八二、一〇三円である。
二 債権者は右母子弾撥指に罹患し、平成六年三月一日より同月二四日まで債務者の許可を受けて休業し、同月九日手術を受けた。債務者はこの傷害について労災としてその手続をした。
三 債務者の大阪支店松葉支店長(以下「松葉支店長」という)は平成六年二月二一日頃、債権者が勤務する近鉄阿倍野店のパートタイマーである申立外中村洋子から電話で「債権者が休暇を承諾しない」との訴えを受け、これを許可したが、同月二五日頃、申立外中村洋子が同支店長に面会に来て、「債権者から勤務シフトを勝手に変更され、客の前で怒鳴り散らされた。店を変えるか、辞めさせてほしい」と言われたので、松葉支店長は同月二八日に債権者、申立外中村洋子、同大谷朱美の四名で話をしたところ、債権者が自己の非を認め謝罪した。これをうけ松葉支店長が「今後のことは自分に任せるように」と発言し、債権者も申立外中村洋子もこれに同意した。
四 しかし松葉支店長は、この時の債権者の態度が悪かったことから、解雇しようと考え、三月七日頃債権者の本社にその経過や結論を連絡し、本社も解雇を承諾したが、申立外中村洋子に対する問題のみで解雇すると債権者の反発を招き、商品クレーム等の嫌がらせをされると困ると考え、又解雇は労働基準法により第二項記載の傷害の治癒確認後三〇日経過後に制限されている為、解雇は右期間経過後とすることにし、その間、債権者をアステ川西店に配置転換すると決定した。
債務者は、アステ川西店への通勤は従来に比べ時間がかかり、又食器洗い等の雑用もあって、従来比(ママ)べ相当きつい勤務内容ともなるから、債権者は自ら辞めるか、配転を拒否するであろうと見込み、配転拒否のときはこれを理由として解雇出来ると考えて、その目的のためにのみ債権者の配置転換を決定したものである。
そして債務者は債権者に対し、平成六年三月二一日に「同月二五日から債権者をアステ川西店に配置転換する」旨口頭で通告した。
五 これをうけ債権者が属する泉州労働組合「せんしゅうユニオン」(以下「組合」という)は、同月二五日に債務者に対し右配転問題について団体交渉を申し入れ、債務者もこれに応じて、組合の上田委員長等を交えて団体交渉を開催したが、債務者は債権者に対し「配属については近鉄阿倍野店とすることを考えているが検討する」とし、その間債権者を自宅待機とすることを承諾して、何回か交渉を繰り返していたが、五月二日に債務者の井上次長から組合の上田委員長に連絡があり、同委員長が井上次長を訪ねると、同次長は同委員長に対し「五月五日からアステ川西店勤務を命ずる」との債権者に対する辞令を交付しようとしたので、同人が受領を拒否したところ、債務者は申立外福川律美弁護士(以下「福川弁護士」という)を債務者の代理人とするので、以後同弁護士と交渉されたいと述べた。
六 この頃債務者の従業員で組合に所属している申立外中野冨美子も京阪守口店から阪急三番街店への配置転換を命じられたことから、債権者と申立外中野冨美子は組合の源吉兆庵分会を結成し、債権者が分会長に就任し、改めて債務者に団体交渉を申し入れたところ、債務者もこれに応じて、五月七日に団体交渉を開催したが、債務者は債権者らの配置転換については再度検討することとし、さらに五月一四日に債務者側は福川弁護士のみが出席して団体交渉をしたが結論がでず、再度五月一九日頃に交渉することとした。この交渉のたびに債務者は債権者らの自宅待機を延長すると合意してきた。
五月一九日に組合の上田委員長が福川弁護士に電話をしたところ、同弁護士は「債務者の専務が海外出張から帰国したところであるので、五月二三日頃まで時間を欲しい。それまで債権者の自宅待機を延長する。」との趣旨の話があり、同委員長もこれを了承した。
七 五月二〇日に債務者から債権者の自宅に、「平成六年五月二〇日にて自宅待機を解除する。同月二一日よりアステ川西店への勤務を命じる」との趣旨の書面が到達した。同種の書面は申立外中野冨美子にも送付された。
組合の上田委員長らは、債務者と福川弁護士に対し、「この書面は従来の交渉経過と相違すること、団体交渉再開を要求すること、債権者らの自宅待機を継続すること」等を記載したファックスを送付したところ、福川弁護士から「同日朝に解任された」旨電話により回答があり、債務者から五月一九日付で上田委員長宛に「債権者にはアステ川西店、中野は阪急三番町店に勤務させることに変更はない」との趣旨の書面が送付されてきた。
組合はさらに債務者に対し、「五月二三日に団体交渉をすること、それまで自宅待機を継続をすること、回答を同日午後五時までにすること」との趣旨のファックスを送付したところ、債務者から組合に対し、同日午後五時五〇分に「福川弁護士との交渉は団体交渉ではなく示談交渉にすぎないこと、自宅待機は団体交渉期間中にのみ認めたものであり、団体交渉は既に決裂していること、福川弁護士を解任したこと、就労を拒否するときは解雇すること」との趣旨の回答がファックスで送付されてきた。
しかし右ファックス送付時間は、すでに組合事務所の就業時間後であり、組合の上田委員長らがこの回答を見たのは、翌日二一日朝であったので、組合は、二一日午前一〇時三〇分頃に、債務者の松葉支店長に対し、債権者らに関して有給休暇の取得を申請する旨ファックスで通知し、同日午後には、「二二日よりアステ川西店に就労する、出勤時間等を午後五時までに知らせて欲しい」旨ファックスで通知した。
これに対し債務者は、組合事務所の就業時間後である同日午後五時三〇分になって、「出勤時間は午前一〇時三〇分から午後七時三〇分までとし、平成六年五月二二日、五月二三日については勤務するよう命じます」との趣旨をファックスで通知してきた。
八 債権者は、五月二二日にアステ川西店に出勤した。債権者は勤務開始時間前である午前一〇時すぎにアステ川西店への就労には異議を留めつつ応じたものであることを示すために、応対した債務者の山田、竹田両社員に五月二一日午後に債務者に通知したファックスと組合の分会作成のビラを渡した。その後債権者は就労したが、午後一二時三五分頃に前記竹谷(ママ)社員から「ビラを勤務時間中に配付したので自宅待機とする」として、債務者に帰宅を命じられて、その後の就労を拒否された。
債権者が翌二三日に出勤すると、松葉支店長が「債権者を解雇する。解雇理由は書面で通知する」と口頭で解雇の意思表示をした。続いて債務者から債権者自宅に、同月二三日付で解雇の理由が記載された書面が郵送された。
この書面に記載された解雇理由は、(1)複数の後輩に嫌がらせをし、トラブルが絶えない為債権者にアステ川西店勤務を命じたこと、(2)債権者はこれを拒否したこと、(3)五月二一日からの勤務命令に対し当日無断欠勤をしたこと、(4)五月二二日出勤後従業員に対し債務者を誹謗中傷したこと、(5)勤労意欲が認められないことを挙げて、これら債権者の一連の行動乃至態度は信頼関係を破壊したものであり、就業規則第四九条第二号の「従業員の就業状況が著しく不良で就業に適しないと認められる場合」に該当するというものである。
九 債務者は、債権者に対する配置転換の告知の時から、団体交渉中は勿論、解雇通知に至るまで、債務者が真の解雇理由とする後記第三の第一項記載の「申立外中村洋子やその他の者に対するいじめ問題」について言及せず、かえって債権者らに対し「アステ川西店への配転は栄転である。」「債権者の成績は良かった。」「アステ川西店は債権者の直営店で大事な店であるので頑張ってほしい」等と発言して、同店への配置転換に応じるよう説得をしていた。
第三解雇理由についての当事者の主張
一 債務者の主張
本件解雇は、「債権者が、過去に近鉄阿倍野店に勤務した申立外渡辺八重子、申立外村永さおり、申立外東地真弓に対し、あるいは現に勤務しているパートタイマーである申立外中村洋子に対し、執拗ないじめを繰り返し、同人らを辞めさせたり、同店から配置転換せざるを得ないようにさせた(以下単に「いじめ問題」という)もので、これら複数の後輩に対するいじめをする従業員は、職場秩序を乱すだけでなく、債務者の信用に係わるものであること」が真の理由である。
右以外に解雇理由はなく、前記第二の第八項記載の解雇通知書面記載の事由も解雇理由でない。又債務者は、債権者を配置転換すれば、債権者は自己の意思で退職をするか、又は配置転換を拒否するであろうし、拒否したときはこれを理由に解雇をする予定で配置転換を決定したものである。
二 債権者の主張
債務者は団体交渉中から解雇通知に至るまで、いじめ問題について言及せずに配置転換を命じたものであるから、これを理由として配置転換や解雇をしないとの態度を表明したものと言うべきであり、債権者もこれを信頼して団体交渉をしてきたものであるから、禁反言の法理あるいは信義誠実の原則により債務者は右の態度表明と異なる主張をすることは出来ず、又解雇の時期、態様や経緯等を総合すると本件解雇権の行使は権利の濫用であり無効である。
又前記第二の第八項記載の解雇通知書面記載の事由につき、債権者が複数の後輩に嫌がらせをし、トラブルが絶えないとの点は否認し、解雇通知において右いじめ行為につき具体的な行為が特定されておらず、又事前に告知、聴聞の機会が付与されていない。債権者は配置転換には応じている。五月二一日からの勤務命令が債権者に到達したのは事実上当日であり、又ただちに休暇を申請しており無断欠勤とはいえない。五月二二日のビラを配付したとの点は勤務時間外である(この点は債務者も認めている。)。従業員に対し債務者を誹謗中傷したとするが、団体交渉の経緯や交渉事項等を記載したビラの配付は労働組合活動として行ったものであり、その内容もアステ川西までの勤務時間についての記載に関するものであり、誹謗中傷とはいえない。従ってこれら事由は解雇としては合理的理由となり得ないものである。
第四本件解雇の適法性について
一 債務者は、前記認定のとおり、出勤してきた債権者に対し、解雇の種類や理由を告知せず、単に解雇する旨述べ、翌日書面により「即時解雇すること、予告手当を支給すること」を通知し、右書面ではじめて労働基準法第二〇条に基づく解雇である旨の意思表示を行っている。
しかし予告手当は解雇による労働者の急迫の生活の困難を救済すること等をその目的とするものであるから、解雇の意思表示と同時に現実に提供されるべきところ、その提供がされたとの疎明はないから、そもそも本件解雇の効力が発生しているか疑問のある(裁判例も学説上も争いがある。)ところであるが、債権者はこれを明らかに争わないので、以下債務者の主張する解雇事由等につき、その効力について検討する。
二 いじめ問題の存否と就業規則の解雇事由の該当性について
1 疎明資料(<証拠略>)によれば、債権者は、過去に近鉄阿倍野店に勤務した申立外村永さおり、申立外東地真弓に対し、あるいは現に勤務しているパートタイマーである申立外中村洋子に対し、仕事が遅い、トロイ等と相当数多く発言をし、又仕事上の過誤について厳しい口調で詰問し、あるいは有給休暇の取得を拒否する等したこと、これら言動は一般顧客を相手とする百貨店の中にある店内で顧客の面前でされたことがあったこと等から、これを契機として、債権者や前記申立外人らが配置転換を債務者に要求し、債務者もこれに応じたこと、近鉄阿倍野店の店員が比較的短い期間で、他に配置転換され、又は辞めており、この原因の一つに債権者の言動が関係しているものと認められる。但し申立外渡辺八重子が債務者を辞めた原因が債権者の言動によるとは認められる疎明はない。
2 債務者の就業規則(<証拠略>)第四九条には、いわゆる予告解雇に処すべき事由が定められ、又同規則第五八条には訓戒、減給、出勤停止、降格の事由が、同第五九条には懲戒解雇事由が定められている。
ところで債権者の前記言動は、一般顧客を相手とする百貨店の中にある店内で、かつ顧客の面前でされることがあったこと、他の店員の配置転換希望の契機になっていること等からすると、債権者の前記言動は、職場の秩序を乱し、ひいては債務者の信用に係わるものであるということができる。
そうすると債権者の前記言動は、形式的には同規則第五八条第三号の「会社の風紀秩序を乱したとき」にの制裁事由に該当するが、同規則第四九条一号ないし四号、同規則第五八条一号ないし一三号に該当するとは認められない。
3 もっとも同規則第四九条五号は、同条一号ないし四号に準ずる程度のやむを得ない事由をいわゆる予告解雇事由としており、又第五八条一四号も同条一号ないし一三号に準ずる行為のあったときを懲戒解雇事由としており、債権者の前記言動は形式上右各条項に該当すると言えなくもないから、以下本件解雇権の行使の効力について検討する。
三 本件解雇権の行使の効力について
1 疎明資料によれば、債権者のいう「いじめ問題」は、職場における伝票の紛失により顧客から依頼を受けた商品の配送ができなかったこと、あるいはレジの打ち方の誤りにより金三万円の誤差が発生したこと、商品の配置の方法に問題があったこと、休暇の理由に問題があったこと等を原因として、債権者と前記の者とのトラブルが発生したものがあり、それらはそれ自体から相手方にも相当の責任があると考えられるものであり、又それ以外の行為は、仕事が遅い等と言い続けたというものであるが、これも仕事に関するものであることからすると、仮に疎明方法のとおりの事実が認められるとしても、債権者が仕事に熱心であり、かつ責任感をもっていたがゆえに発生したトラブルであったとも考えられ、その責任の有無、内容、程度等を判断するについては、各トラブルに至る経緯や原因、相手方や債権者の言動や態度ないしは対応等の諸事情を考慮して判断すべきことであり、又申立外人らが辞めたり配置転換を希望したのは、職場環境や勤務内容、状況等も考慮しなければならず、右疎明資料のみで直ちに債権者がこれらの者に対していじめ行為をしたと評価して、債権者の責任を決定することは、速断にすぎるものである。
2 債務者の就業規則第五七条によれば、制裁事由ある場合は制裁委員会を経て行い、必要に応じて弁明の機会が与えられることが定められているところ、本件解雇は前記のとおり形式的には同規則第五八条第三号の「会社の秩序を乱したとき」に該当し、実質上制裁としてされたものであるにかかわらず、制裁委員会も開催されておらず、又債務者に告知もされず弁明の機会も与えられていないものである。
尚申立外中村洋子に対する行為につき松葉支店長が事情を聞いているが、これは申立外中村洋子の申出により、職場秩序の維持と同人らのトラブルの解決のために行われたものであり、制裁を前提としたものでないから、おのずから債権者の対応も制裁を告知して事情聴聞される場合と異にするものであり、これをもって同規則の弁明の機会を与えたものとは言えない。
そうすると仮に債務者主張のように、債権者のいじめ問題が存在したとしても、その行為は就業規則記載の制裁事由の訓戒、減給、出勤停止及び降格の処分対象に該当するにすぎず、その処分も制裁委員会の開催により決定されることとなっているのに比較すると、本件解雇は厳しい措置であり、かつその手続も相当でなく、著しく均衡を失しているものである。
3 債務者の主張によれば、同種のいじめ行為をしたとする申立外中野冨美子は、債権者と同様配置転換はされたが、解雇は勿論、何らの制裁もされていないのであり、同人に対する処遇と比較すると、債権者の解雇は厳しい措置であり著しく均衡を失しているものである。
4 さらに債務者は、解雇にいたる団体交渉の過程でも債権者に対し、いじめ問題につき何らの告知もしておらず、むしろいじめ問題を理由として解雇する意思を決定しながらこれを秘して、債権者が任意に辞めるか、配置転換を拒否することを見込み、拒否するときはこれを理由として解雇するとの前提で債権者に対し配置転換を命じ、その見込みに反して組合が関与して団体交渉を求めるや、これに応じて、「債権者の成績は良い、配置転換は栄転である」等と発言して配置転換に応じるように説得したのであるが、これら債務者の行為は債権者に対していじめ行為を不問にするとの意思を示したものと見ることができるところ、本件解雇はこの債務者の債権者に対する意思表明に反する不意打ちの措置であり、著しく信義に反するものである。
5 又債務者は債権者が配置転換に応じるや、就業時間の告知を遅らせて債権者の定時出勤を困難にするなどし、債権者が出勤するや、本来認められる時間外の組合活動行為であり内容も相当であるビラの配付等を理由として、就労を拒否して帰宅させ、翌日出勤すると同時に、解雇の種類や理由を告知せず、解雇手当ても現実に提供せずに、解雇を言渡し、続いて前記のように債権者が考えていた真の理由でない解雇理由を通知する等しており、その応対は極めて不誠実なものであり、その手続きも社会的相当性を欠くものというべきである。
6 本来解雇権利の行使は自由であるが、その効果は労働者の生存の基盤を喪失させるものであるから、社会的に相当と認められる合理的根拠の存在が認められ、かつ相当の手続きによって決定されるべきものであり、これを欠く解雇権の行使は権利の濫用としてその効果を否定されるべきものである。
本件解雇は、解雇の理由が債務者の就業規則に定める解雇事由に該当しないこと、仮に債務者の主張する解雇事由が存したとしても、就業規則に定める他の制裁処分の場合や同種のいじめ行為をしたと債務者が主張する申立外中野冨美子の処遇と比較して、著しく均衡を失していること、解雇理由について債権者の弁明の機会を与えていないこと、解雇に至るまでの債務者の態度や対応の態様や経緯、解雇告知の方法等が、信義に反しかつ不誠実なものであり社会的相当性を欠くものであること等からすると、本件解雇権の行使は、権利の濫用としてその効力を認めることができないと言うべきである。
第五結論
以上の事実を総合すると、債権者は債務者との間で労働契約上の地位を有しているものであり、債権者は債務者より一ケ月金一八二、一〇三円の賃金の支給を受けて、右収入によって生活を維持しており他の家族の収入も少ないことからすると、本案判決言渡しまで右賃金の仮払いをする必要があるから、債権者の申立はこの賃金額の限度で相当と認められ、債権者の資力や本件事案の性質等を考慮して担保を立てさせないでこれを認容することとし、申立のうち右認定した賃金額を超える部分と、本案判決言渡以後の仮払いを求める部分は、いづれもこれを却下することとし、申立費用については民事保全法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 松山文彦)